映画『沈まぬ太陽』に登場する手紙(2)

前回に続き、映画『沈まぬ太陽』に登場する手紙をもう一つ、紹介しましょう。

物語の終盤で、主人公の恩地とともに労組を引っ張っていた、香川照之演じる八木書記長のささやかな復讐劇が描かれます。

労組での活動を会社に疎まれて左遷人事にあい、さらに行天常務に不正な金の工作を命じられていた八木は、その指示や工作の顛末を克明に手帳に書き記していました。

八木は、不正の証拠物件でもあるそれらの手帳を東京地方検察庁に送り、真実を世に伝えようとします。その手帳を入れた封筒をポストに投函するシーンに、一瞬ですが封筒の宛名面が映ります。

画像


このポストは、福井県東尋坊の温泉街にあるという設定。八木は一人、ここの温泉宿で手帳に最後の記録をしたため、封筒にまとめて差し出した後、一人、断崖に向かいます。

東京地検あての封筒を投函するポストは、今では少なくなった丸型ポストです。お土産の看板が並ぶ温泉街の坂道沿いには、丸型ポストがよく似合いますね。

画像


さて、郵便料金について見ていきましょう。

八木が宿泊先の旅館のロビーで新聞を読むシーンがあり、その新聞には1987年という日付が見えます。服装から見て、これは1987年の夏から秋にかけてのエピソードと想定されます。

1981年1月20日に郵便料金の改定が行われ、封書が50円から60円に値上がりしました。つまり、1987年当時は、いわゆる封書60円時代。

さて、ポストに投函される封筒を良く見てみると、1981年7月10日に発行された、ブルーを基調とした100円切手が少なくとも2枚、貼ってあるのがわかります。この切手はいまでも現役で使われており、奈良の春日大社にある国宝の工芸品「銀鶴」をデザインしたもの。平安時代の作と言われ、実物はわずか13センチの小さな銀製品です。

この封筒を持って歩くシーンを良く見ると、どうも同じ100円切手が4枚、田型で貼ってあるようにも見えます。

画像


八木がこの封筒に入れたのは、宿で手帳をしたためるシーンから類推して、小型の手帳5冊とノート3冊です。総重量は、500gから800gぐらいでしょうか。

1987年当時の第一種定形外郵便の料金は、350gから500gまでが350円、500gから1kgまでが700円でした。仮に400円しか貼っていなかった場合、500g以下であれば十分ですが、それ以上の場合は、300円不足になってしまいます。

八木は郵便局からではなく、直接ポストを探してこの封筒を投函しています。料金を調べずに出してしまったのか、あらかじめ重量は計算して切手も用意してあったのか、気になるところです。

休日なので郵便局が閉まっていたのでしょうか。しかし、この郵便をポストに投函する直前、八木は三浦友和演じる行天常務へ赤電話から最後の電話を入れ、会社にはかけてくるなと言っただろう、と怒られるシーンがあり、この日が一般のサラリーマンであれば出勤日である平日であることがわかります。八木は、どうやら会社を休んで、最後の旅行に立ったようですが、平日の昼間であれば、ちょっとした観光温泉街には、郵便局の一軒くらいありそうなものです。

このような重要な証拠物件を、自分の死の直前に郵便に託すのですから、私だったら少なくとも書留にはしておきたいなと思います(ちなみに書留であれば、当時はさらに350円加算)。

映画の中の、ほんの数分のシーンですが、郵便好きにはいろいろ想像の膨らむ演出となっており、興味はつきません。

さて、次回はもう一つ、これも比較的新しい映画に登場する郵便物をとりあげてみたいと思います。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 5

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い 面白い 面白い 面白い

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック