『坊っちゃん』とターナー島

小説『坊っちゃん』には、新任教師の主人公が同僚教師たちに誘われ、舟釣りに出かける場面があります。その中で、「松と石ばかりの青島」として登場するのが、愛媛の高浜に実在する四十島だと言われています。

昨日紹介した絵はがき「松山道後名勝十六景」から、その四十島をとりあげた一枚を紹介しましょう。

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明治25年5月1日、伊予鉄道が三津から高浜まで延長され、明治28年4月に松山に赴任してきた漱石は正岡子規や河東碧梧桐とともに、たびたび高浜まで海水浴に出かけました。その時に見ていたのが、上の絵はがきのような、松の生えた小島が浮かぶ印象的な景色だったと思われます。

小説『坊っちゃん』から、この島が登場するシーンを見てみましょう。

船頭はゆっくりゆっくり漕いでいるが熟練は恐しいもので、見返えると、浜が小さく見えるくらいもう出ている。高柏寺の五重の塔が森の上へ抜け出して針のように尖がってる。向側を見ると青嶋が浮いている。これは人の住まない島だそうだ。よく見ると石と松ばかりだ。なるほど石と松ばかりじゃ住めっこない。赤シャツは、しきりに眺望していい景色だと云ってる。野だは絶景でげすと云ってる。絶景だか何だか知らないが、いい心持ちには相違ない。ひろびろとした海の上で、潮風に吹かれるのは薬だと思った。いやに腹が減る。「あの松を見たまえ、幹が真直で、上が傘のように開いてターナーの画にありそうだね」と赤シャツが野だに云うと、野だは「全くターナーですね。どうもあの曲り具合ったらありませんね。ターナーそっくりですよ」と心得顔である。

(中略)

野だがどうです教頭、これからあの島をターナー島と名づけようじゃありませんかと余計な発議をした。赤シャツはそいつは面白い、吾々はこれからそう云おうと賛成した。この吾々のうちにおれもはいってるなら迷惑だ。おれには青嶋でたくさんだ。あの岩の上に、どうです、ラフハエルのマドンナを置いちゃ。いい画が出来ますぜと野だが云うと、マドンナの話はよそうじゃないかホホホホと赤シャツが気味の悪るい笑い方をした。


漱石がここでターナーの名前を出したことから、四十島を別名、ターナー島とも言うようになりました。
このターナー島は、愛媛高浜局の風景印にデザインされています。

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手前に描かれているのは、高浜の恵美須神社にある子規の句碑です。子規が四十島を詠んだ一句「初汐や 松に浪越す 四十島」が刻まれています。

「初汐」とは、旧暦8月15日の大潮のこと。この時期に高浜を訪れた子規は、島の松を洗うほどの高い波をたびたび目撃したのかもしれません。

作家たちの創作の源になった光景、いつまでも大切に残して欲しいものです。

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