小諸に藤村の足跡を訪ねて(2)「田中君」の実像が判明

小諸懐古園の中にある藤村記念館を、引き続き紹介いたしましょう。

島崎藤村は明治32年4月、小諸義塾の講師として招かれ、この地にやってきました。

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記念館の前には、藤村の胸像が建っています。台座の背面に記されているように、この銅像は昭和48年、小諸ライオンズクラブ5周年を記念して造られたもののようです。背中には、「昭和四十八年 内堀功作」とあります。

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記念館は平屋で横に長いつくりになっており、樹木の間に埋もれるように建つその姿は歴史的な建造物を思わせ、城址の中にあっても違和感のない景観を作り出しています。私が訪問したのは10月23日で、ちょうど紅葉が始まりかけており、城内の栄華を偲ぶには良い季節だったかもしれません。

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この記念館を設計したのは建築家の谷口吉郎です。谷口吉郎は明治37年6月24日に金沢に生まれ、東大建築科を卒業した後は東工大の教授として教壇に立ちました。昭和23年に馬籠にある藤村記念館を設計したのをはじめ、昭和32年にこの小諸の藤村記念館、昭和35年に東宮御所、昭和43年には東京国立博物館東洋館、昭和44年には東京国立近代美術館を設計するなど、歴史に残る建築の設計に関わっています。博物館明治村の初代館長を務めたのも、この谷口吉郎でした。

下は、記念館の前にある解説板です。

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さて、いよいよ記念館に入ってみます。「藤村記念館」の大きな縦書きの看板が迎えてくれます。

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展示室は、中央から左右に横に伸びる形になっており、左側から順に藤村の生い立ちを眺めていく順路です。小諸時代の藤村の写真や直筆書簡、詩の原稿などが多数展示されていました。

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こういった記念館にありがちな、複製品を並べているだけの展示ではなく、直筆資料を含めそのほとんどが実物をガラスケースに入れて並べてあり、迫力がありました。

小諸時代の藤村を訪れた人の紹介は参考になりました。

画家の青木繁は、明治35年秋に坂本繁治郎と丸野豊を伴って群馬・信州をスケッチして歩き、その途上で、小諸の藤村のもとを訪れています。その他にも、徳富蘆花(明治33年10月29日)、柳田國男(明治35年11月2日)、有島生馬(明治36年晩秋)など多彩な顔ぶれが藤村を訪れています。また、田山花袋は明治37年1月5日に藤村宅に一泊、一晩語り明かしたとか。藤村は25歳で抒情詩人として名をあげ、小諸にやってきた当時はまだ27歳でしたが、その多彩な人脈を垣間見ることができました。

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そして、以前このブログでも紹介した、懐古園の古いパンフレットにあった「田中君」に関する資料をいくつか発見しました(前回の謎解きはこちら→http://ikezawa.at.webry.info/201110/article_10.html)。

まずは、私の手元にあるパンフレットの画像を再度ごらんください。

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「田中君に呈す 大正十一年九月 藤村書」とあります。

今回の展示品の中に、以下のようなものがありました。

(1)『夜明け前』の初校正(寄贈 田中宇一郎)
 『夜明け前』の印刷原稿の束に、朱で細かい修正指示を書き加えたもの。藤村自身だけではなく、田中宇一郎の手になる書き込みもあるようです。

(2)藤村から田中宇一郎宛て書簡(昭和10年10月22日付)
 この書簡では、『夜明け前』を藤村文庫に採録することについて触れており、田中宇一郎への校正依頼が綴られていました。田中宇一郎は大正5年から藤村に師事し、藤村の大作『夜明け前』の資料収集や校正に協力した、藤村とも深いつながりのある人です。

(3)藤村の講演会メモ
 大正10年に、藤村生誕50年講演会が行なわれた時のメモです。大正10年2月17日の詩話会主催による祝賀記念会には出席を拒んだ藤村ですが、大正10年11月22日に朝日新聞社が主催した「藤村生誕50年記念講演会」には肝いりで望んだとか。これはその11月の講演の際のメモだそうです。メモには、「野口米治郎君のこと、阿部次郎君、弘田君の歌詞印刷のこと・・・」といったように、何人かの実名が並んでおり、関わりのあったいろいろな人たちとのエピソードを語るつもりだったようです。
 そして、展示解説には、このメモは藤村が田中宇一郎に託した、とありました。つまり、田中宇一郎は、藤村が講演で何を話すつもりかを事前に知りうる立場にあった人物ということになり、藤村が相当信頼を置いていた愛弟子だったことが伺えます。

これらの展示品は、田中宇一郎氏自身がこの記念館に寄贈したものとのこと。これでもう答は出たようなものですね。パンフレットの表紙に使われた藤村の肖像写真も、藤村が田中宇一郎氏に贈呈し、田中氏が大切に保管していたものを、この記念館に寄贈した、と見てほぼ間違いないでしょう。

さて、次は懐古園にある藤村の二つの詩碑を見ていきたいと思います。

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